着物のリメイクはお客様の、そしてご家族の想いがこもった着物にハサミを入れるということ。
覚悟を持って臨むリメイクですし、お客様がそれぞれ持っているストーリーをどうやって洋服に落とし込むか、心を砕くリメイクでもあります。
数あるリメイク・ストーリーの中から、ジャズシンガーであり、小学校の音楽の先生でもあるA様の着物からドレスへのストーリーをご覧ください。
代表取締役 兼 デザイナー
保坂郁美
笑顔が素敵なA様は普段は小学校で音楽を教えており、旦那様と二人暮らし。
社会人になってからジャズと出会い、バンドのボーカルとしてライブを行うアーティストでもあります。
◯ 着物Story
A様のお母様は着物をよくお召しになる方で、A様自身も小さなころから着物になじんで育ちました。
今回リメイクした着物は、お知り合いから譲り受けたもの。
リメイクをするために、着物をほどいてしまっていいかと元の持ち主さんに伺ったところ、「それでその着物に光が当たるなら」とご快諾いただけたとのことです。
A様とは、着物の先生をされている方から、お食事会を通しおつなぎいただきました。その後、コラボしているクリーニング店の展示会でSNS上で発信させていただいたところ、ご自宅が非常に近いことが判明。
お互い改めてご縁に驚き、その後展示会のたびに足を運んでくださったA様。お会いするたびに、お着物やお洋服について楽しくお話させていただきました。
その時のお話の中で、「いつかはリメイクでドレスを作りたい」とお話しくださり、お願いするなら「ニィニさん」と、嬉しいコメントをいただいておりました。
コロナもあり、しばらく展示会からご無沙汰していたところ、A様から引っ越しを機に思い切って、着物リメイクでワンピースをお作り出来たらとご連絡をいただきました。
嬉しく思いお見積りをお出ししましたが、予算オーバーということで、残念ながら別の機会にということで一旦は保留に。
この際もお断りのメールとはいえ、非常に温かいメールをいただきましたので、いつかご縁をいただきたいと思ったのを覚えています。
A様には展示会の度に、いつもご丁寧に応援メッセージを個別でいただたり、本当に心温まるお言葉をいただいておりましたので、今回ではなくても何とかお力になれたらと強く思っていました。
「せっかくのご縁なので・・・」
最初のお問合せから一週間ほど後に、前向きな嬉しいご連絡をいただきました。ご主人さまはヴァイオリン作りの職人様でして、
「主人もものづくりの仕事なので、ここまで心遣いくださったことが、どれだけ特別なことかがよく伝わります。」と。
そのような、心温まるやり取りをさせて頂き、今回リメイクさせていただく運びとなりました。
お話しをお伺いしたところ、A様には約10年ぶりに、ご自身でライブを開きたいと思っていたタイミングであり、ピッタリな想いをこめたドレスを探していたところ、ニィニを思い出してくださったとのことでした。
久々のライブでしたが、「後にはひけないように!」と清水の舞台からから飛び降りる覚悟で、まずコンサートの予定を決めて、会場予約までしてしまったというA様。
ドレスも作ってしまえば、さらにライブも実行せざるをえないとリメイクに臨んだとのことです。素晴らしい行動力に、今度はニィニが応援させていただく番と、お話も益々弾みました。
そのような、心温まるやり取りをさせて頂き、今回リメイクさせていただく運びとなりました。
イメージはA様の普段のお洋服でイメージの近いものや、雑誌などでお好みの洋服を写真でいただけましたので、デザインの確定はとてもスムーズに進みました。
一度ご来店し、簡単なデザインスケッチと、近しいサンプル見本がありましたので、一度でデザインを決めることができました。また、その1か月後シーチングでの仮縫いも同じくその場でOKをいただき、本当に、ご縁を感じるスムーズな進み具合でした。
まずはシーチング(試作用の布)で仮制作を行います。
A様のイメージに沿うように、360度すべての角度から、A様を美しく装えるように。
デザイナーである私と、パターンナー、縫製チーフが何度もやり取りを繰り返し、納得できる試作品を仕上げていきました。
※シーチングは通常は綿の布帛ですが、今回は着物素材に合わせた仕様の布にしました
ニィニの洋服はピッタリフィットしたセミ・オーダーですので、ご足労ですが、本縫いの前に、一度、仮縫いにいらしていただきます。
仮縫い用試作品を元に、A様の要望を伺い、美しいラインが出るサイズ感をミリ単位で調整していきました。
パターンとデザインが確定した段階で、本制作に入っていきます。
着物には流れるような柄がありますので、その魅力を殺さずに、最大限に活かすように。
シンプルなデザインだからこそ、ごまかしは利きません。
裁断・縫製の担当者と何度も検討を重ねながら、制作を進めました。
お渡しのタイミングは、いつもこちらも緊張する瞬間です。
完成品を初めてA様にお渡ししたところ、いつもの素敵な笑顔をさらに明るくして、受け取ってくださいました。
ライブ当日の着こなしについても、カシュクールワンピーススタイルとインナーに黒を合わせロングカーディガン風スタイルのイメージチェンジをアドバイスさせていただきました。
ご縁あって、保坂さんにリメイクドレスを作っていただくことになりました。
自分のライフステージの中で、
・着物をあまり着る機会が少なくなったこと
・引越しを機に身の回りのものを断捨離する必要があったこと
これが現実的な2つの理由です。
そして、「着物を着てステージでジャズを歌いたい」という気持ちがありました。
保坂さんの「捨てないアパレル」のリメイクの活動を知る中で、
「着物ではなく、リメイクした着物ドレスが、ジャズを歌う私には合っているんじゃないか」
という考えに至りました。
デザインから仮縫い、仕上げに至るまで、保坂さんとイメージを具現化していく活動はとても胸躍りました!
仕上がったカシュクールワンピースは、着物のよさを損なわないデザインで「リメイク」というよりは、「アップグレード」という感じすらしました。
リズムにのったときに、裾がめくれすぎないよう工夫がされていたり、袖の美しい丸みや、後ろや横から見たラインの美しさなど、プロの技が光っていました。
ライブは2ステージあったのですが、1ステージ目は女性らしく、カシュクール部分を結んでワンピース風に。
2ステージ目は、カッコいい女性を演じるべく、中を黒でまとめ、ワンピースを羽織りのようにしました。
一着で2通りの表現ができるよう、狙ってデザインする保坂さんのセンスに脱帽です。
人との縁を大切にすることを、小さい頃から両親に教わりました。
今回、保坂さんとのご縁で、素晴らしい衣装を纏い、自信をもってステージで歌えたこと、心から感謝いたします!
いよいよ待ちに待ったライブの日。
心を揺らすジャズのリズム、素敵な歌声、そしていつもにもまして輝いているA様の姿を、そこに見つけることができました。
ライブでは、第一部ではカシュクールワンピースとして、第二部では黒のインナーを着た前開きスタイルで、2通りの着こなしをしていただきました。
撮影 佐藤幸一様(@kosatphoto)
いつもはお客様として拝見するA様は、チャーミングな魅力にあふれた方です。
けれどこの日、夢の舞台を実現したA様は、誇りに満ち溢れた輝きをまとい、いつもとは全く別人の様で、忘れることができません。
A様の輝かしいライブを洋服でお手伝いし、そしてその場に同席もできたこと。
ニィニとしてもとても嬉しく感じ、胸に広がった温かい思いを味わいながら、帰途につきました。
※基本的には、着物リメイクはご相談から完成まで約2か月です
ご希望内容やご検討期間により、完成までの納期は異なります
Before
After