お越しいただき誠にありがとうございます。
「捨てないアパレル」を目指しております(株)ニィニ、代表取締役、デザイナーの保坂郁美です。
朝夕はだいぶ過ごしやすくなってまいりましたが、日中はまだまだ暑く外出には日傘が必需品な今日この頃です。皆さま、いかがお過ごしでしょうか。
日本経済を支える中小企業の殆どの会社は、無名なばかりか、メディアに取り上げられる機会も少ないことから、その多くは知られていません。そこで、総合研究所のスタッフの皆さまがが、ご縁のある会社を尋ねてくださり、日々の取材の内容をもとに、「中小企業の現場」をご紹介してくださいます。
今回は有難いことに、ニィニを選んでいただき、とても丁寧に取材いただきました。
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https://www.jfc.go.jp/n/findings/sme_reports/2024_12.html
創業41年、埼玉県蕨市にある、(株)ニィニは、婦人服の企画、デザイン、パターン、製造、販売を行っているアパレルメーカーである。1階が店舗、2階がアトリエ、3階が生地倉庫となっており、ここまで一貫して行っているアパレルメーカーは、現在、きわめて珍しいという。
同社は、昨年9月に代表取締役に就任した保坂郁美さんの母、保坂晴代さんが1983年に創業した。当初は、百貨店に入っている有名ブランドのサンプルなどを少量縫製する程度だったが、次第に出来上がりの完成度が高いと評判となり、徐々に量産も請け負うようになっていった。晴代さんは、結婚して間もなくの頃は、義母の希望もあり専業主婦だった。しかし、学生時代から縫製の腕が良かったことから、アパレル企業に勤めていたかつての友人から次々と仕事が舞い込むようになったため、家族と話し合い、家族に支えられ縫製会社を立ち上げた。
郁美さんが同社に入ったのは、28歳の頃である。それまでは、服飾学校に通うことなく、美術大学に進学し、陶芸や絵を手がける作家を本気で目指していた。在学中には国際的なコンペで入賞するなど、実績を着実に重ねていった。しかし、家業が忙しかったため、洋服の検品や出荷を手伝うことが多く、作品制作よりも家業の手伝いを優先しなければいけない日々に悶々としていた。次第に母とは意見の相違が増えていき、将来行くべき道を悩むこともあった。
そんな郁美さんが入社を決めたのは、この状況に真っ向から立ち向かい、真の自分と向き合うものづくりは、身近な「洋服づくり」にあるのではないか、そう直観したからだそうだ。作家活動は、人生の晩年に持ち越すことができるが、洋服づくりへの挑戦は今しかできないと一念発起し入社を決意した。服飾の専門学校へは通わず、現場に入り、裁断、パターン、縫製、販売をスタッフと母である専務に支えられ経験を積んだ。
同社は、20年ほど前よりOEM事業と並行して、セミオーダー対応の自社ブランド「élevemumuエルベムム」を立ち上げた。きっかけは、専務の強い思いにあった。国内ブランドは完全分業制で、縫製工場をもたず外注化している会社が多い。縫製工賃は安価で、業界全体で一般化していた。その現状に強く疑問を持ち続けていた専務は、つくり手が直接ブランドをもち、より安価でお客様の希望をかなえることができるセミオーダー対応のブランドを立ち上げ、余計な在庫をもたない体制を整えた。デザイナーは、専務の友人であり、有名なアパレルデザイナーに依頼し、同社初の試みをスタートさせた。
これまで作家として1人で創作活動をしてきた郁美さんは、チームでつくり上げる環境になかなか慣れず、困惑することも多かったが、徐々にスタッフ一人ひとりの洋服づくりへの熱意に魅了され、チームでつくり上げる洋服づくりにのめり込んでいった。入社から5年後、郁美さんはデザイナーを任されることになった。陶芸作家として美術品を制作してきたが、洋服は違う。3~5キログラム痩せて見える美しい光と影はどこにあるのか。作家として培ってきた郁美さんの独特のセンスと、洋服づくりを極めてきた専務の技術をかけ合わせた洋服は、唯一無二のデザインを表現し、チームでつくり上げた洋服は着心地が良いと評判になった。
同社は、15年前よりリメーク事業を手がけている。「今は着なくなってしまったが、思い出の詰まった着物や毛皮は捨てられない。どうにかしてリメークできないか」と、顧客から相談を受けたのがきっかけだ。当初、着物も毛皮も取り扱った経験がないことから、丁重に断っていたが、がっかりして帰る顧客の後ろ姿が忘れられなかった。何とか願いをかなえたい。郁美さんは専務と、自宅にあった着物や毛皮をすべてほどき、チーム一丸となってばらし方や縫い方を徹底的に研究した。特に毛皮は今まで扱ってきた生地とは違い、一つ一つ個性があるため、縫い方を調整する必要があった。モニターを募って何度も試作し、事業化できると自信をもてるまで、2年以上かかった。
リメーク事業は、オリジナルデザイン制作と違い、言葉にできない顧客の思いをかたちにする提案なので、デザイナーとしてヒアリング力が問われるという。
また、大柄の着物は柄の位置が重要になるので、カラーコピーをパターン通りにカット、時には配置を細かく確認する。着物のリメークは、提案から1カ月後に布の素材で仮縫いし、デザインとサイズを確認する。その後さらに1カ月かけて完成させる。毛皮のリメークは、完成まで3カ月ほどかかる。
着実に実績を積み上げ、大手着物メーカーと毎月着物リメークの展示会を開催できるまでに成長した。
近年アパレル業界では、廃棄衣料の多さが課題になっている。同社は、セミオーダーとリメークの事業を「捨てないアパレル」と位置づける。郁美さんは、「洋服を捨てずにリメークしながら次の世代に受け継ぎ、廃棄衣料をゼロにするのが目標」と話す。
この考えを広げるため、2020年、埼玉県主催のSAITAMA Womanピッチコンテストに『「捨てないアパレル」を浸透させる、セミ・オーダーとリメイク事業』でエントリーし、最優秀賞を受賞した。顧客の心を満たす洋服をつくる同社の姿に、小企業としてのあり方をみた。
(柴山 光歩・2024.8.30)
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